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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1026号 判決

原告

山本義雄

右訴訟代理人弁護士

六川詔勝

右訴訟復代理人弁護士

小越芳保

右補佐人弁理士

積田輝正

被告

東亜機械工業株式会社

右代表者代表取締役

砂泊春介

被告

近畿くみあい飼料株式会社

右代表者代表取締役

四鬼啓二

被告両名訴訟代理人弁護士

飯沼信明

樫永征二

右補佐人弁理士

角田嘉宏

鳥巣実

高石郷

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告東亜機械工業株式会社(以下「被告東亜機械」という。)は、別紙イ号図面説明書及びイ号図面記載のテーブルフィーダー(以下「イ号物件」という。)を製造、販売してはならない。

2  被告近畿くみあい飼料株式会社(以下「被告近畿くみあい」という。)は、イ号物件を使用してはならない。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら共通)

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、次の(一)及び(二)の実用新案権(以下それぞれ「本件実用新案権(一)」、「本件実用新案権(二)」といい、その考案を「本件考案(一)」、「本件本案(二)」という。)を有している。

(一) 考案の名称 テーブルフィーダー

出願 昭和五〇年一二月二九日

(実願昭五〇−一七七八七九)

公告 昭和五二年一〇月二六日

(実公昭五二−四七二二七)

登録 昭和五三年八月二五日

(登録番号第一二三九〇二二号)

実用新案登録請求の範囲

「貯槽缶胴1の内部に、中心に流出口2を備えて外周に缶胴1との間に所要幅の間隙4を設け、下面に傾斜案内羽根5を形成した環状板3を固着し、該環状板3の上部に外周放出羽根9、案内羽根5の下部に上面の外周側に所要幅の環状板12を有する鉤形排出羽根10を、共通の駆動軸11に固着して連動回転させるようにし、外周放出羽根9の先端を上記間隙に臨ませると共に、案内羽根5に上下移動自在の補助板6を取付け、貯槽缶胴1の底板13に排出口14を開口させてなるテーブルフィーダー。」

(二) 考案の名称 粉粒体フィーダー

出願 昭和五〇年一一月二七日

(実願昭五〇−一六一一二七)

公告 昭和五三年一一月二五日

(実公昭五三−四九一六九)

登録 昭和五四年六月一四日

(登録番号第一二九二三八四号)

実用新案登録請求の範囲

「混合室罐胴1の内部に、中心に流出口2を備えて外周に罐胴1との間に間隙4を設け、下面に傾斜案内羽根5を形成した環状板3を固着し、該環状板3の上部に外周放出羽根6、案内羽根5の下部に上面の外周側を所要の幅だけ覆い中心部を開放した環状板9を有する鉤形排出羽根7を、共通の駆動軸8に固着して連動させるようにし、混合室罐胴1上部に接続した貯槽罐胴10に、環状板3の外周端との間に粉粒体の自然流出を防止する角度の高さを設定した間隙11を設け、混合室底板12に排出口13を開口させ、放出羽根6及び排出羽根7を同一方向に回転させて、貯槽罐胴10内の粉粒体を混合室罐胴1内を通過させ排出口13より排出するようにしたテーブルフィーダー。」

2(一)  本件考案(一)は、貯槽内に貯蔵した配合飼料、セメント、肥料等の粉粒体を、良い混合状態で常に定量宛円滑に排出し、混合効果と排出効果とを同時に向上させるように企図したフィーダーに関するものである。

(1) 本件考案(一)は次の構成要件からなる。

① 貯槽缶胴1(番号は別添の本件考案(一)の実用新案公報による。本件考案(一)につき以下同じ。)の内部に、中心に流出口2を備えて外周に缶胴1との間に所要幅の間隙4を設け、下面に傾斜案内羽根5を形成した環状板3を固着する。

② 該環状板3の上部に外周放出羽根9、案内羽根5の下部に上面の外周側に所要幅の環状板12を有する鉤形排出羽根10を、共通の駆動軸11に固着して連動回転させるようにする。

③ 外周放出羽根9の先端を前記間隙4に臨ませるとともに、案内羽根5に上下移動自在の補助板6を設ける。

④ 貯槽缶胴1の底板13に排出口14を開口させて設ける。

(2) 従来のフィーダーは、仕切板により貯槽缶胴と混合室缶胴とが区別されており、貯槽缶胴内の粉粒体を外周放出羽根により放出する際に、粉粒体を両缶胴間の狭い間隙を通過させることとなり非常に大きな抵抗を生じ、また傾斜案内羽根が固定であつたため、排出羽根の回転中に環状板と案内羽根との無理な接触により排出羽根の回転に抵抗を生じ、円滑な回転が妨げられるといつた欠点があつた。

本件考案(一)は、これらの欠点を除去して粉粒体の排出効果を高めるとともに、その混合効果をも同時に向上させることを企図したものであつて、前記の構成を採ることにより次のような作用効果を奏する。すなわち、

① ともに回転する外周放出羽根と鉤形排出羽根との間に固定案内羽根を置き、案内羽根に上下移動自在の補助板を沿わせることにより、右排出羽根の回転を円滑ならしめ、粉粒体の目づまりを防止する。

② 環状板を設けることにより、案内羽根を通過する粉粒体を内外周側に交互に転向させて混合排出することが可能となり、完全な粉粒体の混合と連続した定量の排出が得られる。

(二)  本件考案(二)も同じく、貯槽内に貯蔵した配合飼料、セメント、肥料等の粉粒体を、良い混合状態で常に定量宛円滑に排出し、混合効果と排出効果とを同時に向上させるように企図したフィーダーに関するものである。

(1) 本件考案(二)は次の構成要件からなる。

① 混合室罐胴1(番号は別添の本件考案(二)の実用新案公報による。本件考案(二)につき以下同じ。)の内部に、中心に流出口2を備えて外周に罐胴1との間に間隙4を設け、下面に傾斜案内羽根5を形成した環状板3を固着する。

② 該環状板3の上部に外周放出羽根6、案内羽根5の下部に上面の外周側を所要の幅だけ覆い中心部を開放した環状板9を有する鉤形排出羽根7を、共通の駆動軸8に固着して連動させるようにする。

③ 混合室罐胴1上部に接続した貯槽罐胴10に、環状板3の外周端との間に粉粒体の自然流出を防止する角度の高さを設定した間隙11を設ける。

④ 混合室底板12に排出口13を開口させ、放出羽根6及び排出羽根7を同一方向に回転させて、貯槽罐胴10内の粉粒体を混合室罐胴1内を通過させ排出口13より排出するようにする。

(2) 従来貯槽内の粉粒体を排出するには、貯槽の中心に開口させた排出口をダンバーによつて開閉させることにより行つてきたが、貯槽外周部に近い粉粒体は摩擦によつて自重沈降が妨げられ、いわゆるブリッジ現象を生じて円滑な排出に困難を来すという弊害があつた。

本件考案(二)は、この弊害を除去して粉粒体の排出効果を高めるとともに、その混合効果をも同時に向上させることを企図したものであつて、前記の構成を採ることにより次のような作用効果を奏する。すなわち、

ともに回転する外周放出羽根と鉤形排出羽根との間に固定案内羽根を置き、更に環状板を設けることによつて、混合室缶胴内を通過する粉粒体を内外周側に交互に転向させて混合排出することが可能となり、粉粒体の完全な混合と連続した定量の排出が得られる。

3(一)  被告東亜機械は、昭和五八年暮れ頃、イ号物件と同様のテーブルフィーダー一台を製造し、これを被告近畿くみあいに販売したが、今後もイ号物件を製造、販売する虞れがある。

(二)  被告近畿くみあいは、右イ号物件を使用している。

4  イ号物件は次のような構造上の特質を有している。すなわち、イ号物件はテーブルフィーダーであつて、

(一) 貯槽缶胴1'の内部に、中心に流出口2'を備えて外周部に抜き孔4'を設けるとともに放射方向に長円抜き孔4"を設け、下面に下縁部に切り欠き5"を有する傾斜案内羽根5'を形成した環状板3'を固着し、

(二) 該環状板3'の上部に中央上面にブリッジ防止装置16'が配設された掻き回し羽根9'、案内羽根5'の下部に上面の外周側に環状板12'を有し半径方向に対して外周側が後方傾斜している直状排出羽根10'を、下部が截頭円錐状遮蔽板11'で覆われた共通の駆動軸11'に固着して連動回転させるようにし、

(三) 掻き回し羽根9'の先端を前記抜き孔4'に臨ませ、

(四) 貯槽缶胴1'の底板13'に排出口14'を開口させて設ける。

5  イ号物件は、本件考案(一)及び(二)の構成要件を具備しており、本件考察(一)及び(二)の技術的範囲に属する。

(一) まず、本件考案(一)とイ号物件の構成、作用効果について対比してみるに、

(1) イ号物件の構造上の特徴(1)は本件考案(一)の構成要件①を充足している。

イ号物件において抜き孔4'は間欠的であるのに対し、本件考案(一)において間隙4は連続的であるが、本件考案(一)においても間隙4は案内羽根5により間欠的に区画され、あたかも複数の孔が形成された状態となつて、間隙4と抜き孔4'の構成は近似しているところ、イ号物件の抜き孔4'も本件考案(一)の間隙4もともに缶胴壁近傍にある粉粒体を下方の環状板12'、12にそれぞれ案内して落下させるという点において同一の作用効果を奏するのであつて、両者の間に技術的な相違はない。

また、イ号物件において環状板3'には放射方向に長円抜き孔4"が形成されているのに対し、本件考案(一)において環状板3は平滑面であるが、長円抜き孔4"は、環状板3'上に堆積する粉粒体を下方に落下させるためのものでそれ以外の機能を有するものではなく、単に中央の流出口2'を補助するものに過ぎないから、これを設けることに特段の技術的な意味はないのであつて、両者の間に技術的な相違はない。

その他の点においてもイ号物件の構造上の特徴(1)は本件考案(一)の構成要件①を充足している。

(2) イ号物件の構造上の特徴(2)は本件考案(一)の構成要件②を充足している。

イ号物件において環状板3'の上部には掻き回し羽根9'が設けられているのに対し、本件考案(一)において環状板3の上部には外周放出羽根9が設けられているが、本件考案(一)の外周放出羽根9は、回転方向に凸状に湾曲した形状を有しており、粉粒体を外周方向に移動させて間隙4から落下させるものであるところ、イ号物件の掻き回し羽根9'も、回転方向に面する外側部分が後行方向に傾斜した状態となつており、環状板3上に堆積する粉粒体をこの後行傾斜面(湾曲面)であたかも切るように外周方向に移動させて抜き孔4'から落下させるものであつて、両者は同一の作用効果を奏し技術的な相違はない。

また、イ号物件において排出羽根10'は直状体であるのに対し、本件考案(一)において排出羽根10は外側の一部が回転方向に対して凹状に形成されているが、本件考案(一)の排出羽根10は外周放出羽根9と連動して回転し、環状板12上に堆積する粉粒体を案内羽根5に沿つて中心方向に集め、環状板12の内周縁から底板13に落下させ、かつ底板13の粉粒体を外周方向に寄せ集め、排出羽根10の間の粉粒体を排出口14から定量宛排出する作用を有するものであるところ、イ号物件の排出羽根10'も、掻き回し羽根9'と連動して回転し、環状板12'上に堆積する粉粒体を案内羽根5'に沿つて中心方向に集め、環状板12'の内周縁から底板13'上に落下させ、かつ底板13'上の粉粒体を外周方向に寄せ集め、排出羽根10'の間の粉粒体を排出口14'から定量宛排出する作用を有するものであつて、両者は同一の作用効果を奏し技術的な相違はない。

その他の点においてもイ号物件の構造上の特徴(2)は本件考案(一)の構成要件②を充足している。

(3) イ号物件の構造上の特徴(3)は本件考案(一)の構成要件③を充足している。

本件考案(一)においては傾斜案内羽根5の下部には上下移動自在の補助板6が設けられているのに対し、イ号物件においてはこのような構造はなく、その構造上の特徴①のとおり傾斜案内羽根5'の下縁部に切り欠き5"が形成されているが、本件考案(一)の補助板6は、これを上下移動自在に設けたことにより、排出羽根10を円滑に回転させ、かつ案内羽根5と環状板12との間での粉粒体の目づまりを防止するものであるところ、イ号物件の切り欠き5"も案内羽根5'と環状板12'との間における粉粒体の目づまりを防止し、排出羽根10'が円滑に回転するように企図したものであつて、両者は同一の作用効果を奏し技術的な相違はない。

その他の点においてイ号物件の構造上の特徴(3)は本件考案(一)の構成要件③を充足している。

(4) イ号物件の構造上の特徴(4)は本件考案(一)の構成要件④を充足している。

(二) 次に、本件考案(二)とイ号物件の構成要件、作用効果について対比してみるに、

(1) イ号物件の構造上の特徴(1)は本件考案(二)の構成要件①を充足している。

本件考案(二)においては混合室罐胴1と貯槽罐胴10とが区別されているに対し、イ号物件においては貯槽缶胴1'があるのみであるが、本件考案(二)の混合室罐胴1は貯槽罐胴10の下部に設けられておりこれと一体的なものであつて、両者の間に技術的な相違はない。

また、イ号物件において抜き孔4'は間欠的であるのに対し、本件考案(二)において間隙4は連続的であるが、本件考案(二)の間隙4は、案内羽根5により間欠的に区画され、あたかも複数の孔に分割された状態になつているのであつて、本件考案(一)との対比でみたのと同様、両者の間に技術的な相違はない。

更に、イ号物件において環状板3'には放射方向に長円抜き孔4"が複数形成されているのに対し、本件考案(二)において環状板3はこのような孔を有しない平滑面であるが、イ号物件の長円抜き孔4"は、環状板3'上の粉粒体を下方の底板13'上に落下させるものであつて、流出口2'と同様の作用を有しこれを補助するものに過ぎないから、本件考案(一)との対比でみたのと同様、両者は同一の作用効果を奏し技術的相違はない。

イ号物件において環状板3'に設けられた傾斜案内羽根5'の下線部には切り欠き5"が形成されているのに対し、本件考案(二)において環状板3に設けられた傾斜案内羽根5はこのような構造を有しない直状板であるが、イ号物件の切り欠き5"は粉粒体の目づまりを防止するという作用を有するに過ぎず、案内羽根5、5'それ自体、いずれも環状板3、3'上の粉粒体を中心方向に案内するという同一の作用を有するものであつて、両者の間に格別の技術的な相違はない。

その他の点においてもイ号物件の構造上の特徴(1)は本件考案(二)の構成要件①を充足している。

(2) イ号物件の構造上の特徴(2)は本件考案(二)の構成要件②を充足している。

イ号物件において環状板3'の上部には掻き回し羽根9'が設けられているのに対し、本件考案(二)において環状板3の上部には外周放出羽根6が設けられているが、本件考案(二)の外周放出羽根6の構造は本件考案(一)の外周放出羽根9のそれと同様であつて、これと同一の作用効果を奏するから、本件考案(一)との対比でみたのと同様、この点においても両者の間に技術的な相違はない。

また、イ号物件において排出羽根10'は直状体であるのに対し、本件考案(二)の排出羽根7は外側の一部が回転方向に対して凹状に形成されているが、本件考案(二)の排出羽根7の構造は本件考案(一)の排出羽根10のそれと同様であつて、これと同一の作用効果を奏するから、本件考案(一)との対比でみたのと同様、この点においても両者の間に技術的な相違はない。

その他の点においてもイ号物件の構造上の特徴(2)は本件考案(二)の構成要件②を充足している。

(3) イ号物件の構造上の特徴(3)は本件考案(二)の構成要件③を充足している。

本件考案(二)においては貯槽罐胴10に、環状板3の外周端との間に粉粒体の自然流出を防止する角度を設定した間隙11が設けられているのに対し、イ号物件にはこのような構造がないが、本件考案(二)において、環状板3上に堆積する粉粒体は、放出羽根6の回転により間隙11を通つて外周方向に案内され、更に間隙4を通つて下の環状板12の上に落下するところ、イ号物件においても、環状板3'上の粉粒体は、掻き回し羽根5'により外周方向に案内されて抜き孔4'から下の環状板12'の上に落下するのであつて、本件考案(二)の間隙11は、これを形成することにより格別の作用効果を有するものではなく、両者の間に技術的な相違はない。

その他の点においてもイ号物件の構造上の特徴(3)は本件考案(二)の構成要件③を充足している。

(4) イ号物件の構造上の特徴(4)は本件考案(二)の構成要件④を充足している。

6  よつて、原告は、本件実用新案権(一)又は(二)に基づき、被告東亜機械に対し、イ号物件の製造及び販売の差止めを求め、被告近畿くみあいに対し、イ号物件の使用の差止めを求める。

二  請求原因に対する認否(2項を除き、被告ら共通)

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  (被告東亜機械)

同3(一)の事実のうち、原告主張の頃イ号物件のテーブルフィーダー一台を製造し、これを被告近畿くみあいに販売したことは認めるが、その余は争う。

(被告近畿くみあい)

同3(二)の事実は認める。

3  同4の事実は認める。

4  同5の主張は争う。イ号物件は、貯槽内に貯蔵されたヘイキューブ飼料の粗砕塊をほぐしながら速やかに排出することを主たる目的としているため、粉粒体の排出効果のみならず混合効果をも同時に向上させようと企図した本件考案(一)及び(二)とはその構成を異にしているのであつて、本件考案(一)及び(二)の構成要件を具備しておらず、本件考案(一)及び(二)のいずれの技術的範囲にも属しない。すなわち、

(一) イ号物件と本件考案(一)の構成、作用効果について対比してみるに、

(1) イ号物件の環状板3'には放射方向に長円抜き孔4"が設けられているが、本件考案(一)においては環状板3上の粉粒体を放出羽根9により外周方向に案内して間隙4から落下させ、粉粒体の混合効果を高めることが企図されているため、環状板3は抜き孔を有しない平滑面であることが必要である。したがつて、長円抜き孔4"を備えたイ号物件の環状板3'は、本件考案(一)の構成要件①の環状板3を充足していない。

(2) イ号物件において環状板3'の上部には掻き回し羽根9'が設けられているのに対し、本件考案(一)において環状板3の上部には外出放出羽根9が設けられているところ、本件考案(一)の外周放出羽根9は、環状板3上の粉粒体を外周方向に案内して間隙4から落下させ、粉粒体の混合効果を高めることが企図されているため、公報の説明図においても回転方向に凸状に湾曲した形状を有しているが、イ号物件の掻き回し羽根9'は、貯槽缶胴内に貯蔵されたヘイキューブ飼料の粗砕塊をほぐすために設けられており、飼料を外周方向に移動させるという作用は期待されていないため、外周放出羽根9のような構造を有していない。したがつて、これと同一の作用効果を奏することもなく、イ号物件の掻き回し羽根9'は、本件考案(一)の構成要件②の外周放出羽根9を充足していない。

(3) イ号物件において排出羽根10'は直状体であるのに対し、本件考案(一)において排出羽根10は鉤形であるところ、鉤形排出羽根10は、環状板3から落下してきた粉粒体を更に良く混和しながら外周側に移動させて排出羽根10の凹部に集め順次排出口14から排出する作用を有し、その際右凹者は羽根とともに回転する粉粒体の外周壁への押圧力を軽減する作用を有するのに対し、イ号物件の直状排出羽根10'は、外周側が後行傾斜した構造を採ることによりヘイキューブ飼料の粒体を単に外周に移動させるに過ぎないのであつて、鉤形排出羽根10のように、回転により粉粒体を更に良く混和しながら外周へ移動し、粉粒体の外周壁への押圧力を軽減するという作用を有していない。したがつて、イ号物件の直状排出羽根10'は本件考案(一)の構成要件②の鉤形排出羽根10を充足していない。

(4) 本件考案(一)においては傾斜案内羽根5の下部に上下移動自在の補助板6が設けられているが、イ号物件においてはこのような構造がなく、単に案内羽根5'の下縁部に切り欠き5"が形成されているに過ぎない。本件考案(一)の補助板6は、環状板と排出羽根との無理な接触により排出羽根の円滑な回転に支障を来したという従来技術の欠点を除去するために、上下移動自在の構造をもつて設けられたものであるが、イ号物件の傾斜案内羽根5'は、下縁部に切り欠き5"を有しているとはいえ、切り欠き5"によつて形成された環状板3'との間隙は不変であつて、補助板6のような作用効果を奏しない。したがつて、イ号物件は本件考案(一)の構成要件③の補助板6を充足していない。

(二) 次に、イ号物件と本件考案(二)の構成、作用効果について対比してみるに、

(1) イ号物件において環状板3'には長円抜き孔4"が設けられており、イ号物件と本件考案(一)の構成、作用効果の対比においてみたのと同様、イ号物件は本件考案(二)の構成要件①の環状板3を充足していない。

(2) イ号物件の掻き回し羽根9'は、イ号物件と本件考案(一)の構成、作用効果の対比においてみたのと同様、本件考案(二)の構成要件②の外周放出羽根6を充足していない。

(3) イ号物件の直状排出羽根10'は、イ号物件と本件考案(一)の構成、作用効果の対比においてみたのと同様、本件考案(二)の構成要件②の鉤形排出羽根7を充足していない。

(4) 本件考案(二)において貯槽罐胴10には環状板3の外周端との間に粉粒体の自然流出を防止する角度の高さを設定した間隙11が設けられているのに対し、イ号物件にはこのような構造がなく、イ号物件は本件考案(二)の構成要件③の間隙11を充足していない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1、2及び4の事実は当事者間に争いがない。

二そこで同5の主張について検討する。

成立に争いのない検甲第一号証(本件考案(一)に基づくテーブルフィーダーのプラスチック製模型)、第二号証(イ号物件のプラスチック製模型)及びイ号物件の写真であることにつき当事者間に争いのい検乙第一号証の一ないし五を見分の上、

1  まず、イ号物件と本件考案(一)の構成、作用効果について対比してみる。

(一)  本件考案(一)が貯槽内に貯蔵した配合飼料、セメント、肥料等の粉粒体を良い混合状態で常に定量宛円滑に排出し、混合効果と排出効果とを同時に向上させるように企図したフィーダーに関するものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件考案(一)の実用新案公報の考案の詳細な説明欄には、本件考案(一)の作用につき、「貯槽缶胴1内に飼料等の粉粒体を投入蓄積する時は、下部外周壁近傍のものは間隙4を通つて環状板12上に落下し、中央部のものは流出口2より底板13上に落下して堆積する。環状板12上に落ちた粉粒体は流動してその内周縁に達するが、自然流出することなく停止する。この状態で駆動軸11を起動し、外周放出羽根9及び鉤形排出羽根10を矢印P方向に回転させるならば、粉粒体は外周へ移動し間隙4より連続して環状板12上に落下する。この落下した粉粒体は一旦環状板12上に堆積するが、中心側に向かつて流れ易く傾斜させた案内羽根5及び補助板6により次第に中心に掻き集められ、環状板12の内周縁より底板13上に落下する。

一方貯槽缶胴1の中心部にある粉粒体はキャップ16の表面を連続滑降して流出口2に落ち、底板13上で環状板12から来た粉粒体と混合する。混合した双方の粉粒体は鉤形排出羽根10の回転により更によく混和しながら外周側へ移動し、排出羽根10の凹部18に集められ、順次排出口14より外部へ排出される。この凹部18は羽根と共に回転する粉粒体の外周壁への押圧力を軽減するために役立つ。」との記載があり、その効果につき、「共に回転する外周放出羽根と鉤形排出羽根との間に固定案内羽根を置き、案内羽根に上下移動自在の補助板を副わせて排出羽根を円滑な回転を行うようにし、更に環状板により案内羽根を通過する粉粒体を内外周側に交互に転向させて混合排出するようにしたので、混合は完全となり且つ排出は定量宛連続して行われ、排出効率の向上は顕著である。」との記載があることが認められる。

(もっとも本件考案(一)が以上のような効果を奏するものであることは当事者間に争いがない。)。

(二)  右に認定した本件考案(一)の目的、作用効果によれば、本件考案(一)は、貯槽缶胴1の内部に、缶胴1との間に所要幅の間隙4を設けた環状板3を固着する(構成要件①)とともに、該環状板3の上部に外周放出羽根9を設け(構成要件②)、この両者を一連一体として、粉粒体を外周部の間隙4に転向させて環状板12上に落下させ、次に環状板12上においては、傾斜案内羽根5及び補助板6により内周縁に集めた後底板13上に落下させ、更に底板13上において、鉤形排出羽根10により外周側に転向させて、このように順次交互に内外周に転向させることによつて、粉粒体の排出効果のみならず混合効果をも同時に向上させようとするものであると認められる。したがつて、環状板3においては粉粒体を外周側に転向させる必要性があるから、環状板3は粉粒体を落下させるべき孔を有する構造を許容するものとは解しえないところ、イ号物件の環状板3'には放射方向に長円抜き孔4"が複数形成されていて、環状板3'上の飼料等はこれを通つて下方の底板13'の上に随所に落下するのであるから、イ号物件は本件考案(一)における環状板3の構成要件を充足しないといわなければならない。

原告は、イ号物件の長円抜き孔4"は単に中央の流出口2'を補助するものに過ぎず、環状板3'上の粉粒体を下方に落下させるという点においては本件考案(一)との間に技術的な相違はないと主張するが、前記のような本件考案(一)の目的、作用効果に徴すれば、本件考案(一)においては環状板3上の粉粒体は外周方向に転向される必要があるのであつて、単に随所に落下してしまつたのではその目的とする混合効果の向上という作用効果を奏しえないことは明らかであるから、原告の主張は採用できない。

また、本件考案(一)において環状板3の上部に設けられた羽根は、右のように環状板3上の粉粒体を外周方向に転向させる必要性から、回転方向に対して凸状に形成された外周放出羽根9であるのに対し、イ号物件においては環状板3'上の飼料等は長円抜き孔4"から随所に落下し、外周方向に転向させる必然性がないため、環状板3'の上部に設けられた羽根は単なる掻き回し羽根9'であつて、本件考案(一)における外周放出羽根9のように粉粒体を外周方向に転向させるという作用効果を奏しないから、イ号物件は本件考案(一)における外周放出羽根9の構成要件を充足しないといわなければならない。

原告は、イ号物件における掻き回し羽根9'も本件考案(一)の外周放出羽根同様、粉粒体を外周方向に転向させる作用効果を奏すると主張するところ、成立に争いのない甲第六号証には右主張に沿う旨の記載部分があり、証人積田輝正の証言中にも同様の部分があるが、これらは、これと相反する成立に争いのない乙第一号証の記載部分及び証人高石郷の証言に照らして採ることができず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、その余の構成について対比してみるまでもなく、イ号物件は本件考案(一)の技術的範囲に属しないといわざるをえない。

2  次に、イ号物件と本件考案(二)の構成、作用効果について対比してみる。

(一)  本件考案(二)が貯槽内に貯蔵した配合飼料、セメント、肥料等の粉粒体を良い混合状態で常に定量宛円滑に排出し、混合効果と排出効果とを同時に向上させるように企図したフィーダーに関するものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証によれば、本件考案(二)の実用新案公報の考案の詳細な説明欄には、本件考案(二)の作用につき、「貯槽罐胴10内に飼料等の粉粒体を投入蓄積する時は、下部の粉粒体が間隙11を通つて外部へはみ出し、環状板3の周縁部に達するが自然流出することなく停止する。この状態で駆動軸8を起動し外周放出羽根6及び鉤形排出羽根7を矢印P方向に回転させるならば、粉粒体は間隙11より連続して外周へ放出され、間隙4を通り落下する。この落下した粉粒体は一旦環状板9上に堆積するが中心側に向かつて流れ易く傾斜させた案内羽根5により次第に中心部に掻き集められ、環状板9の内周縁より底板11上に落下する。一方貯槽罐胴10の中心部にある粉粒体はキャップ15の表面を滑降して流出口2に落ち、底板12上に堆積する。双方の粉粒体は鉤形排出羽根7の回転により混合しながら外周側へ移動し、排出羽根7の凹部16に集められ、順次排出口13より外部へ排出される。この凹部16は羽根と共に回転する粉粒体の外周壁への押圧力を軽減するために役立つ。」との記載があり、その効果につき、「共に回転する外周放出羽根と鉤形排出羽根との間に固定案内羽根を置き、更に環状板により混合室罐胴内を通過する粉粒体を内外周側に交互に転向させて混合排出するようにしたので、混合は完全となり且つ排出は定量宛連続して行われ、排出効率の向上は顕著である。」との記載があることが認められる(もつとも本件考案(二)が以上のような効果を奏するものであることは当事者間に争いがない。)。

(二)  右に認定した本件考案(二)の目的、作用効果によれば、本件考案(二)は、混合室罐胴1の内部に、混合室罐胴1との間に間隙4を設けた環状板3を固着する(構成要件①)とともに、該環状板3の上部に外周放出羽根6を設け(構成要件②)、この両者を一連一体として、粉粒体を外周の間隙4に転向させて環状板9上に落下させ、次に環状板9上においては、傾斜案内羽根5により内周縁に集めた後底板12上に落下させ、更に底板12上において、鉤形排出羽根7により外周側に転向させて、このように順次交互に内外周に転向させることによつて、粉粒体の排出効果のみならず混合効果をも同時に向上させようとしたものであると認められる。したがつて、本件考案(一)と同様、その環状板3にも粉粒体を落下させるべき孔を有するものとは解しえないのであつて、長円抜き孔4"を有するイ号物件の環状板3'は本件考案(二)における環状板3の構成要件を充足していない。この点において両者の間に技術的な相違はないとする原告の主張が失当であることは、イ号物件と本件考案(一)との対比でみたところと同様である。

そして本件考案(二)の環状板3の上部にも、環状板3上の粉粒体を外周方向に転向させる必要性から、本件考案(一)と同様の構造を有する外周放出羽根6が設けられているが、イ号物件の掻き回し羽根9'が環状板3'上の飼料等を外周方向に移動させる作用効果を奏しないことは前記のとおりであるから、イ号物件は本件考案(二)における外周放出羽根6の構成要件を充足していないといわなければならない。

前掲甲第六号証中この点の原告主張に沿う趣旨の記載部分及び証人積田輝正の証言部分は、前掲乙第一号証及び証人高石郷の証言と対比して採用することはできない。

そうとすれば、その余の構成について対比してみるまでもなく、イ号物件は本件考案(二)の技術的範囲に属しないといわざるをえない。

3  したがつて、イ号物件は本件実用新案権(一)及び(二)のいずれにも抵触することはないといわざるをえない。

三以上の次第で、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の判断に及ぶまでもなく、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂詰幸次郎 裁判官萩尾保繁 裁判官石原稚也)

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